港での「綱取り」作業は、船を安全に岸壁へ固定するための欠かせない工程です。しかしその一方で、見た目以上に多くの危険を伴う作業でもあります。今回は、綱取りに潜む代表的なリスクとその背景について解説します。
まず最も大きな危険は、「係船索(けいせんさく)」の張力による事故です。船と岸壁をつなぐ綱には、巨大な船体を止めるために数十トンもの力がかかります。もしロープが切れた場合、その反動は“鞭のように”周囲に跳ね返り、直撃すれば命に関わるほどの威力となります。見た目は太く頑丈なロープでも、摩耗や塩分の影響で劣化していることがあり、予期せぬ破断につながることもあります。
次に、船の動きによる巻き込みや転倒の危険です。入港直後の船は完全に静止していないため、波や風、潮流の影響で微妙に揺れ動きます。そのタイミングで綱を受け取ったり引いたりする際、船の動きに合わせてバランスを崩すと、転倒や海中転落の恐れがあります。また、作業エリアには重機や車両が入ることも多く、周囲への注意も欠かせません。
さらに、夜間や荒天時には視界不良や足場の滑りやすさといった環境要因も加わります。暗闇の中で飛んでくる投げ索を正確に受け取るには高い集中力が求められ、雨や風によって一瞬の判断を誤ることもあります。
こうしたリスクを最小限にするには、事前の点検、合図の統一、安全距離の確保といった基本動作の徹底が不可欠です。綱取りは一見単純に見えても、船と港を結ぶ「命綱」を扱う繊細な仕事。確かな技術と安全意識こそが、港の安心を守る要です。
本日のひとこと
油断大敵(ゆだんたいてき)
油断大敵は、もともと仏教用語に由来する言葉です。
「油断」とは、古くは「心の油を切らすことなく注意を保つ」ことを意味していました。
修行僧が灯明(とうみょう=油の灯り)を絶やさないように見守る姿から、
「油(=心の集中)を断つ」と、灯が消え、闇に包まれる──。
このことから転じて、「少しの気の緩みが、大きな災いを招く」という戒めの意味を持つようになりました。
港湾作業やドローン運用のように一瞬の判断が安全を左右する仕事では、この言葉はまさに現実そのものです。
「危険を遠ざける」よりも、「油断を遠ざける」ことこそが安全の第一歩。
港での綱取りは、張力や潮流など常に危険と隣り合わせの作業です。
しかし、それを確実な手順と注意の積み重ねで安全に行うように、日常の中で遭遇する油断や危険も、日々の小さな意識で避けることができます。
今一度身の回りを振り返り、身近に潜む油断や危険に気づくことで安全な日常を守っていきたいですね。